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死んだら肥料になるのもありらしい。トニー・ウォルター著『いま 死の意味とは』より

お盆の季節ですね。

この時期はお墓まいりですが、代行で済ませられることも多いようです。https://www.asahi.com/articles/ASN8F72DTN8FUGTB00H.html

 

散骨の次の葬法

たびたび「散骨」も話題になり、先祖代々のお墓に、いやお墓そのものに入るのももはや自明ではなくなりつつあるのかもしれません。

 

ちなみに散骨は遺体をまず普通に火葬して、骨になった後にそれを粉末状にしてから撒きます。火葬→骨を砕く(粉骨)→撒くというプロセスになります。

散骨の詳細は以下のリンクに詳しく書いてあります。

自分で散骨する方法と手順|遺骨の粉骨からトラブル回避の基礎知識まで - 散骨@マガジン

 

散骨だけではなく、さらに新しい形の葬法が生まれているようです。最近読んだ『いま 死の意味とは』にはさらに衝撃的なことが書かれていました。

 

それは「遺体を肥料にする」というものです。

 

この『いま 死の意味とは』という本は、イギリスの社会学者であるトニー・ウォルターさんによって書かれた本の翻訳書になります。全体で200p弱で、分量としてはそれほど多くありません。

 

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この本の中では現代の死について、様々なテーマが取り上げられています。医療機関や介護のあり方、良い死とは何か、インターネット(SNS)の発達は死との関わりをどう変化させたのか。事例は海外(ヨーロッパ、アメリカ)のものが中心になっていることもあり、とても刺激を受けました。

 

この本で挙げられているのが「遺体を肥料にする」というものです。

具体的には、アルカリ加水分解と、凍結乾燥(プロメッション/プライオメーション)の二つになります。

 

アルカリ加水分解

アルカリ加水分解は次のように紹介されています。

・動物の遺骸を処分するために1990年代に開発された

・ステンレス製の容器に水と水酸化カリウムを満たし、その中で死体の有機物を溶かす

・地域の排水処理方式でリサイクル可能な液体に還元され、農業用肥料に使うことも提案されている。

アメリカやイギリスで実際に行われている

アメリカのある州では「人間の遺骸が市の排水溝に排出されている」という懸念から、数年後にはアルカリ加水分解を禁止した。

『いま 死の意味とは』P114~115

 

要するに「死体を溶かして肥料にも使えるようにしよう」ということです。ちなみに完全に溶かすことはできないらしく、残った小さな骨は遺族に渡されるようです。

 

ネットの記事にも出ていました。有料記事のようですが、途中までは読むことができます。

遺体をアルカリ溶液に浸してドロドロに、そして…米国で人気急上昇! 死後の第3の選択肢「水葬」とは | クーリエ・ジャポン

 

個人的に遺体を溶かすことについては「恐ろしい!」という感じがしていたのですが、ここで紹介されているコメントとして「火葬に比べて残酷ではない」というのが紹介されているのが意外でした。土葬文化ならではの感覚なのでしょう。

 

ちなみにこのネット記事は2017年のものですが、カリフォルニア州がアルカリ加水分解を許可したことについて「15番目」の州だ、と言われています。『いま 死の意味とは』ではどれだけの州かは書かれていませんでしたが、現在では一層広がっているのかもしれませんね。

 

 凍結乾燥(プロメッション/プライオメーション)

さて、では凍結乾燥(プロメッション/プライオメーション)についてです。これについての記述はあっさりしています。「液体窒素を使用して遺体を過冷却して砕けやすくし、振動を加え、一種の堆肥にする」p115ということです。

 

これについてはしっかり書かれているNewsweekの記事がありました。2020年1月のものです。「プロメッション」で検索するとヒットしました(以下「プロメッション」とだけ記載します)。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/woman/2020/01/post-318.php

 

過程についてもこちらの方が詳しく書いてあります。追記すべきこととしては、「プロメッションでは遺体を過冷却し、砕いて粉末にしたのを自然に還る棺に入れて土の浅い部分に埋葬する」ということでしょうか。また、埋葬後1年ほどで完全に分解されるそうです。

 

ただ、このプロメッションはまだ実際には行われていないようです。法律に抵触するということらしいのですね。アルカリ加水分解が許されているのなら、プロメッションも全然許可して良いとは思うのですが。

 

このプロメッションの開発者は上の記事の中で「遺体は、生物学に基づいて、ハイテクノロジーを使って、自然への贈り物にすることができるのです」と語っています。

 

なるほど。

散骨だと一度火葬にしてしまうため、骨以外の身体を自然に還すということはできません。あくまでも骨だけ。そうしないと単なる死体遺棄になってしまいます。

 

自然のものを自然に返したいという気持ちは分からなくもない。土葬できるスペースが満足にない日本においては、このようなやり方が、身体を丸々自然に返す唯一の方法なのかもしれません。

 

おわりに

大学の頃、友人と話していたことを思い出しました。内容は輪廻について。インドの宗教(ヒンドゥー教や仏教)における生まれ変わりの思想ですね。農学部だったこの友人は「まあ物質的には輪廻しているよね」と言っていました。

 

確かに。と、その時は納得していましたが、火葬はそうした物質的な輪廻を限定的なものにしてしまっているとも言えますね。

 

丸々人間の肉体を自然に還すというのなら土葬がベストです。ただ、現代においてはスペースや衛生的な問題があります。これを科学で解決するのがアルカリ加水分解やプロメッションだと言えるでしょう。

 

ただ、土葬で「自然へ還る」ことと、現代科学を使って「自然に還す」というのは似ているようで少し違うようにも思われます。まあ現代で行われている火葬も現代科学の産物なのですけども。

  

倫理の問題なのか、文化の問題なのか、それとも「慣れ」の問題なのかは分かりません。とりあえず今言えるのは、自分の親が「肥料になりたい」と言ったら「ダメ」と言うだろうということです。